最近、自炊を習慣にしようと頑張っている。
夏が繁忙期のため、実際時間や労力を割いて日課とするのは、なかなか骨が折れる。
しかし、例えば缶詰とカット野菜でサラダを作るだとか、ブロックの魚を刺身にするだとか、手間暇がかからないよう工夫して、何とか継続できている。
そんな最中、スーパーである魚の刺身を見つけた。
その魚は、実際のところ結構有名である。しかし、餌取りだとか外道だとかと称されて、どちらかといえば不人気寄りだ。
主にチヌ釣りの仕掛けやサビキ仕掛けにアタックしてきて、ヒット時はややテンションが上がるものの、取り込んでみてがっかり。そんな印象が強い。
旬は冬だとされ、狙うならその時期だと色々な釣り本に記載されている。サイズは大体30~50㎝ほどだ。
ちなみに、サイズによって名前が変わる出世魚と呼ばれるものの一種でもある。
―何の魚の話をしているか、お分かりいただけただろうか?
以下、その魚の食味レポートである。
その正体は。
そう、ボラである。
https://www.zukan-bouz.com/public_image/Fish/156/Thumb630/bora.jpg
コマセを撒くと、夥しい数のそれが接岸することもあることから、一度は見たこと、釣ったことがある方が多いのではなかろうか。
それくらい知名度はあるのに、僕はどうにもこの魚は、ネガティブキャンペーンが酷いと感じている。
どの釣り本を見ても、『泥臭い』『調理には向かない』『冬以外はオススメしない』等、リリースしろという圧力を掛けられている気分になる。
また、市場に出回ることは極めて稀だ。ボラがタイやブリなどと並んでいる光景を、少なくとも僕は知らない。
かつて子どものころ、40㎝くらいのボラを釣ったことがある。だが、父親の反対に遭い、泣く泣くリリースして帰った記憶もある。
知らず知らずの内に、僕もまた、『とりあえずボラは不味い』という観念を抱いていた。
だが、そんなボラの刺身がスーパーに並んでいた。今は別に旬でもないのに。不思議だ。
値段はかなりお手頃であった。同じ値段のサーモンの刺身の、多分倍以上は入っている。
「そういえば、俺は実際にボラを食べたことあったっけ?」
ふとそう閃き、僕はその刺身をレジへ持っていき、会計を済ませて帰宅したのであった。
食味について。
証拠となるものがなくて申し訳ないが、その時の写真は撮り忘れた。
見た目の印象は、なかなか独特であった。ハタの身に見た目は近いが、遠いと言えば遠い。
ホウボウのそれに似ているとも言えそうだった。
臭みが心配であったが、とりあえずは薄口の醤油につけて食べてみた。
正直言うと、普通に美味しい部類の身だと僕は感じた。これがマズいとか、日頃どんなに良い魚を食ってるんだ?
泥臭さは特になし。食感は、アジとタイの身の間の硬さであった。
前者ほどの脂の乗りは無かったが、後者ほどの歯応え・パサつきも無い。すっきりしていて食べやすかった。
その刺身の中にはポン酢が入っていたので、そちらでも食べてみた。相性としては、醤油よりも良かった。
そして5分程度で、僕はボラの刺身を完食した。想像していたマズさは皆無。払った額以上の満足度は得られた。
固定観念はアテにならないな。僕はそう思った。
丁度お盆の時期である。殺生はどうこうと色々言われるが、そういうのを気にしない諸氏は、きっと釣りに出かけられることだろう。
豆アジの調子が良いエリアの情報も、ちょこちょこ耳に入ってくる。
となれば、そこでボラと出会うチャンスも出てくることだろう。
『ぜひ、食べてみてよ!』とまで言うつもりはさらさらないが、少しでも興味が湧いたのなら、是非ご賞味いただきたい。
―そしてこれで、残りは89品目となった。
これからも魚に関する色々な固定観念を崩したい。ボラの刺身を食べて、僕はそう思うのであった。