皆様は産まれて初めて釣りをした日の記憶を、どれくらい覚えているだろうか。
僕の場合は、小学校に入ってすぐの夏休み。母の実家が山口県にあり、そこへ帰省したときのことだ。
良くも悪くも、祖父の家は典型的な田舎の一軒家。畳の部屋に、唯一の娯楽はブラウン管のテレビ。夏休みの宿題も全部終わっていた。
当時はハマっていた漫画も携帯ゲームもなかったので、僕はひたすら退屈そうにしていたはずだ。
そんな僕を見かねてか、祖父は近所のドブ川に連れて行ってくれた。生活排水が流されるようなところなので水質は悪かったが、魚はたくさんいた。
粗末な延べ竿に、食パンを練っただけの粗末な餌。それでも、次から次へとフナやハヤが釣れた。本当に、心の底から楽しかったのを覚えている。
躍るウキ。日差しを受けて輝く魚。嬉しそうな祖父の顔。今でもすべて覚えている。僕の釣りとの出会いは、本当に素晴らしいものだった。
―そして今日。仕事が休みですることもなく、ベッドの上でセミの鳴き声を聞きながら、この日のことを思い出していた。
『あー、もうあの頃から20年以上経つのか。そういえば最近、久しく川釣り行ってないなぁ。川釣りも結構、面白いよなぁ。』
―よし、行くか!
出不精の僕にしては珍しく、決断と行動は一瞬で終わった。ベッドから飛び起き、シャワーを済ませ、出かける準備を整える。
うっすらホコリで覆われ始めていた釣り具を押し入れから取り出すと、釣具屋へ出発。足りない仕掛けと餌を買いそろえると、僕は一路、防府に向かった。
『せっかくだ。今日は、思い出の川で釣りをしてみよう!』
ガラにもなく、子どもみたいにワクワクする。楽しい釣行になりそうだ。僕は法定速度ギリギリまでアクセルをふかし、目的地へと急ぐのだった。
今日のタックル。
まず、タックルについて。延べ竿を買おうかとも思ったが、要らん出費は削るに限る。
ということで、お気に入りのエギングロッドに、レブロス2500といういつものセットをチョイス。
餌はミミズ。
レギュラーサイズが無かったので太目(3~4㎝くらい)だが、小さいものを頑張って探せば、あまり問題ではなかった。
また、時期的に渇水していることが想定できたため、深くなっている箇所まで遠投できる『フカセ釣り』にした。針は『伊勢尼の4号』。
さて。いきなり思い出の川に行こうかとも思ったが・・・。
ルート上、数年前にライギョを釣り上げた貯水池も通るので、まずはそちらに寄り道することにした。
ここにはニゴイなど、まだ釣っていない魚種が居る。こちらもこちらで、期待は大きい。
ということで以下、実際の釣行レポートである。
時系列レポート。
大体14:00頃、僕は例の貯水池に到着した。
全体的に渇水気味だが、濁りはそこまででもない。大きなボラの姿も見えたので、魚がいないわけでもないらしい。
5分程散策すると、水門の辺りに魚群を発見できた。流れに逆らいながら、水底に口をパクパクさせている。
写真だと全く分からないが、ところどころ黒くなっている辺りで、10㎝くらいの魚が群れをつくって固まっていた。数は多い。
ということでさっそく、ミミズをつけてキャスト。群れの遥か後方に投下し、流れに乗せて、群れに仕掛けを近付けた。
―だが、ミミズが通っても、完全にスルーか、それを避けられる始末。誘いをかけても群れが散るだけなので、恐らく餌が合っていない。
今回はミミズ以外の餌を持ってきていなかったので、ここには早々に見切りをつけた。滞在時間は15分程度。
幸先は悪いが、そんなものはどうでもいい。僕は次に、自衛隊基地横にある、隠れ家的水門に向かうことにした。
―が、こちらは先ほど以上の渇水に加え、茶色く濁り倒していた。長い間使っていない蛇口をひねったら出てきそうな、錆び付いた色。
一応車から降りて確認したが・・・。あまりにも汚れているため、魚はいそうにないと判断。環境破壊はここにまで及んでいたか。
・・・少しだけ悲しい気分になったので、とっとと今日の目的地に行くことに決定。車を5分走らせ、路肩に駐車し、まずは散策から。
味のある風景だ。この景色こそ、僕の原体験。思い出の川だ。交通量も少なく、アブラゼミの鳴き声や川のせせらぎがハッキリ聞こえてくる。
そんな景色を楽しみながら、どこを探るか考えるため川の側を歩いていると、近くの民家から会話が漏れ聞こえてきた。
細かいところまでは聞こえなかったが、大きな笑い声が何度も聞こえたので、きっと楽しい話なのだろう。良いなぁ、この牧歌的な感じ。
さてさて。思い出や感傷に浸り過ぎても話は始まらない。結局、住宅と住宅の間を流れる用水路の深みに魚群が見えたので、ここに決めた。
フナやハヤ、イナが積極的に何かを食べているのが分かる。活性は良いらしい。サイズも、大きいのは20㎝くらいありそうだった。
しかも、まだ釣ってないカマツカという魚が大量に群れているのも発見!!これはテンションが跳ね上がる!
時折通る車に竿を撥ねられないよう気を付けながら、まずは深くなっている個所に仕掛けをキャスト。
するとものの数秒で、ウキが完全に沈んだ!―が、アワセても完全なる空振り。恐らく、石か何かに針が引っかかっただけなのだろう。
だが、その後もアタリは頻発した。流れに逆らって進んだり、小刻みに沈んだり浮いたりしたり。だが、そのたびに空振りが続き、少しだけ萎えた。
ようやくヒットしたのは、5回目くらいのアタリだ。空振りに嫌気がさしていたので、完全に沈んでからも数秒待ち、それからアワせた。
今度はしっかりとヒット!クロダイのように、竿を叩くような引き。なかなかそれが強くて、面白い。
慎重に寄せて、ランディングした。釣りあげてみると、良型のフナだ。(多分ギンブナじゃないかと思うのだが)
コンクリートが超高温なので地面に置けず、上手い事側面から撮れなかったが・・。サイズは20㎝ほど。大人の手のひらより少し大きいくらいである。
やっとこさ魚が釣れて、ほっと一息。だが、時間はあるし、カマツカも大量にいるし、これで終わるわけにはいかない。
また釣り始めると、僕の横の方で原付が止まる。顔を向けると、数m先で、70歳くらいのおじいちゃんが目を輝かせながらこちらを見ていた。
バイクのランプのカチカチという音を聞きながら、釣りを続ける僕。すると、おじいちゃんが僕に話しかけてきた。
爺『それはイソメですかいの?』
僕『いや、ミミズです。フナでも釣ろうかなと』
爺『ほぉ』
・・・・。それっきりだ。でもこの中身のない会話、嫌いじゃない。
いつもはこういうやり取り、時間の無駄とか言われて切り捨てられちゃうものな。自分が普段どんだけあくせくしているか、思い知らされる。
しばらくするとおじいちゃんは走り去った。また一人になる僕。釣るところ、見せたかったけどな。まぁ、いいか。
そこから大体5分後、今度はウキが流れに逆らって泳ぎ始めた。少し待って、フッキング。無事にヒットした。
写真が無いが、この時の釣果は15㎝くらいの『オイカワ』。―しかし残念なことに、針を丸のみにされてしまった。
何とか外したが、リリースした瞬間にそのオイカワは、腹を上にして浮かんできた。罪悪感。やるせなさ。ザラザラした思いがこみあげる。
ちょうど針が無くなったのもあり、これをもって納竿とした。帰り際にもう一度川をよく見てみると・・。
魚群はまだまだ濃かった。色々な魚が、一心不乱に何かをつついている。(多分岩に付いたコケ)
やっぱり、思い出の川は、20年経っても素晴らしい。他の人にはそう見えなくても、僕にとっては確実にそうだ。
思い出に浸れて、魚も釣れて。清々しい気分になれる、ステキな釣行でした。
今後試したいこと。(もとい提案)
ところがどっこい。今回の釣行で、いくつか次回試したいアイデアを得た。せっかくなのでそれもここに書いておく。
まず、この川にはおびただしい数の野コイが生息していた。
その数、目視できるだけで30~40はいたのでは?
しかもサイズは30~60㎝程とみた。これは、大物相手の釣りを欲する人には、めちゃくちゃ熱い状況ではなかろうか?
さらに、活性も全く問題なし。実は一回、ウキが着水した瞬間コイが寄ってきて、ミミズを吸い込むという場面があったのだ。
タモ網も無ければ対抗できるほど頑丈な仕掛けもないのでヒヤリとしたが、その時はフッキングせず事なきを得た。
次回はシーバスロッドと3000番のリールを持ち、本気で勝負してやろうと息巻いている。
さてさて。今回僕が取りたかった獲物に、『カマツカ』がいる。
https://zukan.com/fish/internal299
生息する場所も知っているのになかなか釣れない、ちょっともどかしいヤツ。もはや僕にとってはUMAみたいなものだ。
どうすれば釣れるかを考えたが、今のところ、バス釣りの『スプリットショットリグ』を流用するのが良さげだと考えている。
目視できるところにいるので、ゴツい投げ仕掛けは要らない。だが、ある程度のキャスト必要で、細かい操作もほしい。となれば、ここに落ち着く。
専用のシンカーは別に不要で、特大のカミツブシを使えば、なんちゃってスプリットショットリグは簡単に作れる。
底生魚に相性がいいので、フナやコイ、何ならナマズやライギョを狙う際にも通用しそうだ。これはいつか、実験しようっと。
終わりに。
今回はエッセイ色の強い釣行記になったが、たまには読み物としてボリュームがあるのも悪くないと思う。(そう開き直っておきます)
やはり実際に釣りをすると、文章の書きやすさが段違いだ。なら毎週釣りに行けよという話なのだが、なかなかそれは難しいのです。
―さて。皆さんが住んでいるところや、知っている町に、大きな用水路はあるだろうか。そして、そこで釣りをしようと思ったことはあるだろうか。
恐らく、そのような人は超少数派だろう。変な目で見られるかもという恐怖。釣れるわけないじゃないという予測。
だが確実に、そんなものはかなぐり捨てるべき面白さが潜んでいる。それこそ、人ひとりの一生の思い出になるくらいの面白さだ。
夏になれば、川魚の活性がマックスになる。つまりこれからは、用水路フィッシングのシーズン到来なのだ!
この記事を通じて、一人でも用水路フィッシングに興味を持ってくれたら嬉しい。
それでは今日は、この辺で。